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保育の音環境を考える②―人間の脳の傾向を知る

2026.07.16

 前回は、良かれと思って流している保育室のBGMや音が、実はこどもたちにとって「雑音」になっているかもしれない、というお話をしました。

今回は、「人間の脳や耳の発達の傾向」という科学的な視点から、なぜ雑音の多い環境がこどもたちにとって大きな負担になるのか、その理由をさらに深く紐解いていきます。

おとなにはあって、こどもには「まだない」脳のフィルター

おとなは、ガヤガヤと騒がしいカフェやパーティー会場にいても、目の前の相手の話を問題なく聞き取ることができますよね。

このように「自分に必要な音だけを選び取り、それ以外の背景音を雑音としてミュート(消音)する脳の働き」を「カクテルパーティー効果」と呼びます。

実はおとなの脳は、無意識のうちにこの高度な「フィルター機能」を使って耳を守り、必要なコミュニケーションを成立させているのです。

しかし、ここで知っておきたい重要な事実があります。

こどもの聴覚や脳の情報処理能力はまだ発達の途中にあり、この「雑音の中から必要な音を選び抜く力」が十分に育っていません。

つまり、こどもたちにとって、保育室に流れるBGM、おもちゃの電子音、他児の声、外を走る車の音は、すべて「同じ音量」で耳に飛び込んできている可能性があるのです。

そもそも人間の脳は「マルチタスク」ができない

「BGMを聴きながら遊ぶくらい、大したことではないのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、脳科学の視点から見ると、これはこどもの脳に大きな負荷をかけています。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の神経科学者アール・ミラー教授は、脳の仕組みについて次のように指摘しています。

「人間が複数の作業をこなしているときは、一つひとつの作業をスイッチしながら交互に片付けているだけに過ぎません。それぞれ認知するたびに負荷がかかっています」

「何かをしているときに、別のことに集中することはできない。なぜなら2つのタスクのあいだで『干渉』が生じるからだ」

そう、人間の脳は、本質的に一度に一つのことしか処理できない「シングルタスク構造」なのです。 私たちが同時に二つのことをやっているように見えるとき、脳内では「同時進行」しているのではなく、猛烈なスピードで注意を切り替える「タスクスイッチング(脳の切り替え運動)」が起きています。

「BGM」と「遊び」の間に起こる、こどもの脳のパニック

おとなであっても、マルチタスクを続けると脳のエネルギー(ワーキングメモリ)が圧迫され、脳疲労を引き起こします。

これが、脳も聴覚も未発達なこどもたちであれば、どうなるでしょうか。

常にBGMが流れている環境で、こどもが「ブロックで遊ぼう」とするとき、脳内では、

  • 耳に入ってくる音楽を処理するタスク
  • 目の前のブロックをどう組み立てるか考えるタスクこの2つの間で激しい「干渉」が起こり、脳は休む間もなくタスクの切り替えを繰り返すことになります。

結果として、こどもたちの脳には以下のような負担がかかります。

  • 保育者の声がキャッチできない: 「呼んでも反応が薄い」のは、無視しているのではなく、脳の切り替えが追いつかず、物理的に保育者の声をキャッチできていない状態です。
  • 脳のエネルギー切れ: 音の刺激と遊びのタスクを同時に処理しようとするため脳が常にフル回転し、夕方にはぐったりと疲れて不機嫌になったり、情緒が不安定になったりしやすくなります。

「静かだとつまらないかな」というおとなの心配とは裏腹に、こどもの脳は常に過剰な「マルチタスク状態」と戦い、疲れ果てているのです。

パート3として、では音環境の捉え方に関して、お伝えいたします。

参考文献

聴覚の情報処理能力(雑音下での聴取力など)は成人期にかけて緩やかに発達し、4〜6歳頃に急激な上昇が見られること(乳幼児の室内音環境改善に関する研究より)。

Earl Miller (Massachusetts Institute of Technology): "Here’s Why You Can’t Multitask" (人間の脳は構造的にマルチタスクが不可能であり、タスクスイッチングによって干渉と疲労が生じるという研究).

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