保育施設を巡回していると、以前から気になっていることがあります。
それは、保育施設の「音」の環境です。
この音は、本当にこどもたちにとって心地よいものなのでしょうか。
保育室では、0歳児から5歳児まで年齢を問わず、BGMが流れていることがあります。また、ランチタイムや午睡時にオルゴール曲が流れていたり、ボタンを押すと音楽が鳴るおもちゃが数多く置かれていたりと、こどもたちは日常的にさまざまな音に囲まれて生活しています。
保育者にその意図を尋ねると、
「こどもが喜ぶと思って」
「楽しい雰囲気の中で遊んでほしくて」
「無音だと寂しい気がして」
という答えが返ってきます。
もちろん、どれもこどものことを思っての工夫です。
しかし、その音は本当にこどもたちにとって必要なものなのでしょうか。
実際には、おとなの安心感や、「静かだと何となく落ち着かない」という感覚から音が流されている場面も少なくありません。

以前、巡回したある保育施設では、毎日のランチタイムに食育の歌を流していました。
すると、こどもたちは音楽に負けないように他児と話そうとするため、自然と声が大きくなります。
その大きくなった声を抑えようとして、保育者もさらに大きな声で話しかけます。
結果として、保育室全体の音量がどんどん大きくなっていました。
おとなの意図は「食に関心を持ってほしい」だったかもしれません。しかし、こどもたちが求めていたのは、他児や保育者との会話だったのではないでしょうか。
私は、この場面で、おとなの意図とこどもの思いとの間に大きなギャップを感じました。

別の1歳児クラスを巡回した際には、保育者からこんな相談を受けました。
「声をかけても反応が薄いんです。発達に何か問題があるのでしょうか。」
保育室を見渡すと、童謡が常に流れていました。
理由を尋ねると、「静かだとつまらないかなと思って」と教えてくださいました。
そこで、「少し勇気がいるかもしれませんが、一度BGMを止めてみませんか」と提案しました。
翌月の巡回時、保育者は嬉しそうに報告してくれました。
「以前よりも声をかけると応えてくれるようになりました。小さな音にも気付くようになったんです。」
もちろん、変化の理由がBGMだけとは言い切れません。
しかし、おとなが良かれと思って流していた音楽が、こどもにとっては雑音となり、保育者の声を聞き取りにくくしていた可能性は考えられます。

私たちは、「音があること」を当たり前だと感じています。
けれども、こどもたちにとって本当に必要なのは、BGMではなく、保育者の声や他児との会話、風の音、虫の声、自分が遊びの中で生み出す音なのかもしれません。
「音を増やす」ことではなく、「必要のない音を減らす」ことも、保育環境づくりの一つです。
こどもたちの耳を守るために。
そして、こどもたちが本当に聞きたい音を大切にするために。
保育における「音の環境」について、今一度みんなで考えてみませんか。